田園調布の中古一戸建ての相場は1億3,700万円(2025年時点)。でもこの金額では3丁目の土地すら買えません。
「田園調布がやばい…」
「空き家が増えてゴーストタウン化している」
という声が増えている中、一方では坪単価は前年比+7.3%の上昇。地価が上がる街でなぜ空き家が増えるのでしょうか?
この一見矛盾した現象を今回は不動産データをもとに読み解いてみました。
📌 この記事の結論
- 田園調布の2026年公示地価は坪292万円。前年比+7.33%
- 3丁目と5丁目で2.2倍の坪単価
- 地価上昇でも空き家が増える原因は『田園調布憲章』
- 利便性の悪さで芸能人が住まなくなった
- 「やばい?」のはコミュニティの過度期
田園調布の坪単価は292万円|前年比+7.3%
田園調布の公示地価の平均は88万2625円/m2、坪単価では平均 291万7,768円/坪です。
参照:土地代データ-田園調布
2026年の平均坪単価は291万7,768円/坪で前年比+7.33%。港区(坪1,824万円)や松濤(坪750万円)の3分の1以下ですが、大田区内では最高水準です。
ですが、なぜこのエリアだけが100年以上にわたって高い地価を維持し続けているのでしょうか? ——その答えは、街の設計思想そのものにあるようです。
3丁目と5丁目で2.2倍|田園調布内で別の市場
田園調布をひとくくりにするのは危険です。丁目で価格が倍以上変わります。
田園調布3丁目
坪349万円
駅西口の噴水から放射状に伸びる並木の内側。憲章で守られた邸宅街。
田園調布5丁目
坪159万円
駅から徒歩13分ほどの外縁部。同じ住所でも3丁目の半分以下。
ここで冒頭の数字が効いてきます。
📐 「相場1億3,700万円」の正体
憲章の最低敷地面積165㎡(約49.9坪)で土地値を計算すると——
・3丁目:49.9坪 × 349万円 = 1億7,419万円
・5丁目:49.9坪 × 159万円 = 7,936万円
中古一戸建ての相場1億3,700万円は、3丁目の土地だけの値段より3,719万円も安い。
この「相場」は実質、外縁部の価格です。3丁目は相場表に乗るほど流通していません。
地価が上がるのに空き家が増える理由
田園調布の資産価値を100年支えてきたのが住民の自主ルール「田園調布憲章」です。空き家の原因も同じ場所にあります。
- 最低敷地面積 165㎡(約50坪)以上
- 建物の高さ 9m以下・地上2階まで
- 建ぺい率40%・容積率80%(第一種低層住居専用地域)
- 塀ではなく生垣
- ワンルームマンション・高層商業ビルは不可
330㎡ないと分割できない
最低165㎡という制限は、裏返すと330㎡(約99.8坪)未満は2つに割れないという意味です。
300㎡(約90坪)を相続しても分割すると片方が165㎡を下回る。なので丸ごと売るしかありません。
相続税だけで約7,000万円
3丁目で300㎡を1人が相続したケースを試算しました。
🧮 3丁目300㎡の相続税(概算)
公示地価ベース:90.8坪 × 349万円 = 3億1,700万円
相続税評価額(路線価を公示地価の80%と仮定)= 約2億5,300万円
基礎控除3,600万円を引いた課税額 = 約2億1,700万円
税率45%・控除2,700万円 → 相続税 約7,082万円
※相続人1人・他の資産なし・小規模宅地等の特例なしの単純計算
7,000万円の現金が必要。でも土地は切り売りできません。一部を売って納税する逃げ道が、憲章で封じられている。
多くは相続で家を持ちこたえられず、50代半ばの現在、今も地元に住み続けているのは5人ほどしかいないのではないか?という。参照:東洋経済-歩くと気づく「田園調布」に空き家が増える事情
同級生150人のうち残ったのは5人ほど。3%です。
デベロッパーが買わない本当の理由
業者が買い取ればいいのでは——と思いますよね。ここで容積率80%が立ちはだかります。
📐 床1坪あたりの土地コスト
165㎡ × 容積率80% = 建てられる床は132㎡(約39.9坪)
3丁目の土地代1億7,419万円 ÷ 39.9坪 = 床1坪あたり436万円
マンション業者が仕入れで見るのは坪単価ではなく「床1坪あたりいくらか」です。容積率が低いほどこの数字は跳ね上がる。
売れる床が少なすぎて事業として成立しない。だから買い手がつかず、空き家のまま残ります。

アナリスト
芸能人が田園調布を選ばなくなった理由
「田園調布に家が建つ」が成功の象徴だったのは昭和です。財界人・政治家・スポーツ選手が競って家を構えました。
今の芸能人が選ぶのは港区・広尾・目黒区。理由は距離です。テレビ局が集まる赤坂・六本木・渋谷から田園調布は遠く、収録が深夜に終わる仕事ではこの20分が効いてきます。
もう1つは建物の選択肢。代官山にはラ・トゥール代官山、南青山にはパークコート青山。田園調布には高級タワーマンションが1棟もありません。憲章が2階までに制限しているからです。
コンシェルジュ付きのセキュリティを求める層に、田園調布は物件を用意できない。
資産400億円と言われているavex会長の松浦勝人さん。どんな自宅に住んでるのか調べたところ、現在は40㎡の1LDKに住んでいるようです。(本人が自著で書いている)ただ以前は大田区田園調布に自宅を構えていたらしく、その登記簿[…]
田園調布は「やばい」のか?
結論は資産としては強い、コミュニティは過渡期です。
空き家が増えているのは事実。でも坪単価は+7.3%で上昇中。衰退する街の地価は上がりません。
起きているのは衰退ではなく住民の入れ替わりです。昭和型の旧住民(企業オーナー・財界人)から、令和型の新富裕層(IT経営者・外資系幹部・投資家)へ。相続で手放された土地を、現金で買える層が引き取っている。
「ゴーストタウン化」は正確ではありません。流通量が少なすぎて、空いている期間が長く見えているだけ。
✍ 査定の現場から見ると
田園調布で一番多い相談は「売りたいのに値段が折り合わない」です。
私が担当した3丁目の200坪の邸宅は、相続した姉妹の希望が坪350万円、業者の提示は坪240万円台でした。容積率80%で床が取れないからです。最終的に成約したのは、自分で住む個人のお客様。
田園調布は買い手が業者か実需かで査定額が1割以上動きます。相続の見込みがある方は、330㎡を超えているか先に確認してください。
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🏡 分筆できる土地か相続前に確かめる
最低敷地面積と接道条件で、分けられるかどうかが決まります。査定書にはその前提も記載されます。複数社を比べると、業者評価と実需評価の差が見えてきます。売るかどうかは後で決めてかまいません。
田園調布が「やばい」と言われる理由は、街の質が落ちたからではありません。憲章が出口を1つに絞っているからでした。
165㎡を切れないから分割できない。容積率80%だから業者が買えない。結果として相続のタイミングで動きが止まり、空き家に見える期間が長くなる。
守る仕組みと渡す仕組みが、同じルールの表と裏になっている。
坪292万円の裏にあるのは、100年かけて積み上げた景観と、その景観を守るために放棄した換金性。資産価値の高さと現金化のしやすさは別の話だと教えてくれる街ですね。
今回も最後までご覧いただきありがとうございました。
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免責事項
本記事は公表データと報道にもとづく分析であり、特定の不動産の売買を推奨するものではありません。公示地価は毎年1月1日時点の標準地の評価で、個別物件の査定額とは一致しません。坪単価による土地値と床面積の試算は単純計算で、実際の取引価格とは異なります。相続税の試算は相続人1人・他の資産なし・小規模宅地等の特例を適用しない前提の概算で、路線価は公示地価の80%と仮定しています。実際の税額は必ず税理士にご確認ください。田園調布憲章の適用範囲や建築規制の詳細は、田園調布会および大田区・世田谷区の最新の公表内容をご確認ください。






